「あ、そうだ」
オーナーがふと、ブラックスーツの内ポケットをまさぐる。
何を取り出すのだろうかと内心ひやひやしながらも、
表には出さないように極力表情を硬くする。
オーナーが取り出したのは、ポリ袋いっぱいに入った白い粒だった。
俺はほ、と胸をなでおろす。
「コレ、今月のノルマな。しっかりと全部買ってもらえよ?」
「任せてくださいよ、俺、今までノルマ達成できなかったことないじゃないっスか」
「信用してるぜ?」
ポリ袋を受け取る。
俺は持ってきたカバンにそれを仕舞った。
「それにしても、お前ちゃんとガッコウ行ってんのか?」
「まぁまぁっすね」
オーナーがポケットから煙草を取り出し、火をつける。
火の明かりがぼんやりと浮かぶ。
「悪い子だねぇ。高校生のくせにこんなところに入り浸って…あげくに、“アンナモノ”まで友達に広めて―――」
ふぅ…と紫煙をくゆらし、吐き出す。
タバコの匂いが強くなる。
俺は空中に消えていく煙を見つめながら、答えるのだ。
「いいんスよ…別にそれで」
だって生まれたときから汚れていた俺には、
汚れた世界がお似合いなのだから。
汚れた世界が、俺のすべてなのだから。
・