☆お見舞いに来てください☆


いや違う、正確には一度だけあるかもしれない。
それは父と母が離婚する直前、璃子が突然家族旅行がしたいとだだをこね始めたことだ。

小学生だった璃子は家族最後の思い出が欲しかっただけなのだけど、母にとっては正直複雑な心境だったのだろう。

大泣きする私をあやす母の顔は次第に表情を無くし、困り果て、……そうそう、ちょうどこんな顔をしていたかもしれない。


「あの、本当にいい人なんだよ。お母さんの忠告を無視してってわけじゃないんだけど、た、たまたま好きになった人が副社長だったって訳で……」


こればかりはしょうがない。

自分でもこんな出会いに驚いているぐらいだから。

だからお願いだから何か言ってよ。

何でもいいから一言言ってほしい。じゃないとこの緊張感に押し潰されそう。

璃子はそんな気持ちで母を見つめる。

そして母も何を思ってるのか、無言の圧力で璃子の言葉に耳を傾けていたけれど、暫くすると瞳をふせ、突然やりきれないようなため息を吐いた。