「最近友達がカフェをオープンさせたみたいでね。一度俺も顔を出そうと思ってたんだ。良かったら一緒にどう?」
内心戸惑う気持ちをばれないように蓋をした。
あえて気にしないよう冷静を貫く。
何をそんなに焦る必要がある?
彼女は友達。むしろ俺を頼り慕ってくれる妹みたいな存在だ。
食事に誘ったぐらいで動揺することなんてないだろう。
「どうも女子受けするお店みたいでね。一人じゃ入りずらくて」
「あ、そうなんですね。そういうことならぜひ。私で良ければお供します」
若干言い訳じみた台詞になってしまったのは何となく。特に深い意味はない。気にしないでおこうと決め、俺はこの日彼女と食事に行く約束をとりつけた。
「ありがとうございました」
彼女のアパートはごく普通のメゾネットタイプのアパートだった。築年数もそれほど古くなく、未来ちゃん世代の女性が好みそうな作りだった。
「じゃあまたね。あまり未来ちゃんが出産に対してナーバスにならないように」
「……はい。ご忠告ありがとうございます」
最後はへへっと気恥ずかしそうな表情をした未来ちゃんだったが、「また連絡します」と言って柔らかな笑みを向けてくれた。そんなやり取りに何かしらの楽しみが膨らんでいく。
彼女との関係は以前よりずっと深くなっている。
そう確信しつつ、彼女が居なくなり残された空間が無性に名残惜しく思えたのはどうしてなのか。
この時はまだ知るよしもなく、俺はエンジンをかけたものの、暫くアクセルを踏むことが出来なかった。



