あ、何だかいい匂いがする。
リビングに入るとすぐ、甘く食欲を掻き立てる香りがした。
「いい匂い……」
「ああ、今ね、パンケーキ焼いたところなの」
三月さんはそう言ってキッチンに向かう。
「後藤も食べる?」なんて聞いてくれて。
ダイニングテーブルには5才になる長女の愛心(あこ)ちゃんがお行儀よく座っててニコリ、手を振ってくれた。
「あ、みーちゃんだぁ」
右と左にえくぼをつくった愛心ちゃんが可愛らしい笑顔をくれる。
それにまたほっこりした私は涙腺がゆるゆるになっちゃって、同じように手を振って鼻をズルっと啜る。
「どうしたの?泣いてるの?」
愛心ちゃんの隣に座ると、キョトンと顔を覗き込まれた。
まるでお人形のようなくっきりとした大きな瞳でじっと見つめて、思わず愛想笑いを浮かべた。
「……また振られちゃったの?」
「……あ、ん、まぁ」
彼女も私のことはよく分かっている。
5才にして鋭い観察力。
ダメだなぁ…
こんな幼い子にまで心配されちゃうなんて。
そう思うのに、恥ずかしながらこんな状況は一度や二度じゃないわけで。
案の定愛心ちゃんも幼いながらに色々と何かを察し、気をつかってるようだ。



