いっそ幻滅してくれれば楽なのにと璃子は心の中で思った。
そんな重い気持ちのまま、少しの間当たり障りなく会話が進められたのだったけれど、
「本当にごめんなさいねぇ、けっこうな時間待ち惚けさせちゃって。そろそろ来るとは思うんだけど…」
どうせならこのまま来なくていいですよ。
来なきゃいいのにと、璃子は再び心の中で悪態をついたが、現実はそんなに甘くない。
開始から40分ほど経った頃、向かいの華さんの携帯にメールが入り、レストランの入口にスーツを着たそれらしい人が現れた。
「あ、あれよ。ようやく来てくれたわ」
げ、来ちゃったのか…
来なくても良かったのに。どうせ会ったところで何も進まない。
私は水嶋さんが好きで、それ以外の人は考えられないんだから。
そう思いながらあえてそっちの方には向かず、再びシャンパンに手を伸ばそうとした時だった。
「あ、大翔(ひろと)こっちよ」
「すみません、遅くなりました」
……ん?ひろと?
一瞬聞いたことのある名を耳にして、璃子はふと首を傾ける。
大翔、大翔って…
「仁科璃子さんですね。大変遅くなってすみません。水嶋大翔(みずしまひろと)と言います。今日はお会いできてとても光栄です」



