亜紀は大学を卒業した。

 卒業式が終わり、現在交際中の有馬貴久(ありまたかひさ)に一緒に帰ろうと誘う。

 貴久も飲み会は夜からだからと二つ返事でOKした。

 2人で手を繋いで校門までいくと、亜紀の両親が暗い顔で待っていた。

 彼らは貴久を一瞥(いちべつ)して挨拶をする。

 「初めまして。飯岡亜紀の母、飯岡真由理(いいおかまゆり)と申します。こちらは亜紀の父である仁でございます」
真由理は左手で背の高い男性を指す。

 彼は腕を組み、貴久を見下ろしている。

 貴久も背が高いほうだが、それを超える高さだ。

 仁はゆっくりと貴久の肩に手を下ろす。

 「貴久くんだね?」
仁は年季の入った低い声で貴久を試すように聞く。

 貴久は彼のプレッシャーに負けず、そうだと言った。

 そう言うと仁はすまないと謝り、涙を流して彼を抱きしめる。

 「申し訳ない。亜紀と別れてくれ」
仁は貴久に懇願した。

 貴久は事情もわからずに別れることは出来ないと言う。

 実は……とポツポツと仁は語り始めた。

 「亜紀には許嫁がいる。私の上司の息子でな、小さい頃の亜紀を見てとても気に入ったようなんだ。悪い話ではないし、彼の外見からも相当期待出来ると踏んでそれをお受けしたんだ」
仁はそう語った。