鳴海は、はっきりと千歳の体が固まってしまったのを確認すると、やれやれといった感じで起き上がり、何ごともなかったように、

「じゃ、帰るね。お休みなさい」

と言って自分のアパートへと帰って行った。

一人、ソファーの上に残された千歳は頭の中がパニックを起こし、ぴくりとも動けないまま、一夜を明かすはめになった。




ほぼ一睡も出来ずに翌日、千歳は仕事場に立っいた。

精神が高ぶり過ぎて眠気を感じるすき間がない。

朝の掃除を始めようとエプロンに手を通していると、店の扉が開いた。

「おはようございます」

いつものように眠そうな声で…それでいて限りなく無表情に出勤して来た。

う…何も変わらないな…

千歳は目線を無意識にはずすと、心の中で脱力した。

もっと気まずいフンイキを予想していたのだ。

ところがその日一日、鳴海にいつもと変わった様子はなく、千歳が目を合わせられないというのをのぞいては、何も変わらぬ一日だった。