しばらくして、水の音が止まる。
出てきた時には、ビシッとスーツの上着を着てネクタイも直されていた。
「本当に挨拶に行くの?」
朔斗の姿をまじまじと見て確認する。
「行くよ。こういうのは最初が肝心だからな。でも、その前に充電させて」
そう言うと、顔を近付けてくる。
まだ見慣れないアゴ髭のない顔に、いつもよりドキドキが加速し思わず目を瞑ってしまう。
朔斗は私の唇に触れるだけのキスをする。
充電と言った割にはすぐに離れてしまった唇に、少しガッカリした気持ちになった。
ゆっくり目を開けると、朔斗がフッと笑う。
「物足りないみたいだけど、続きは挨拶が済んでからだな」
私の顔を見て意地悪そうに言い、鼻をキュッと摘まむ。
「も、物足りないとか思ってないからっ」
摘ままれた鼻を擦り、抗議する。
悔しい!
そっちが思わせ振りなことを言ったからなのに……。
憤慨している私に向かって朔斗が手を差し出してきた。
「行こう、唯香」
え、ちょっと待って!
朔斗ってこんなに甘い人だったの?
この年で手を繋ぐとか、結構ハードルが高い。
ここに連れてこられた時は、無理矢理というか引っ張られている感じだったし。



