秘めた想いが実るとき


「そうなんだね。じゃあ、これから忙しくなるんじゃないの?」

「いや、大して変わらない。実質、ここ五年ぐらい笠井さんは俺に丸投げしていたからな。最近、笠井さんがいない日が多かっただろ?」

言われてみれば、この前、私が来た時はいなかった。
でも、それは一回や二回じゃなかった。
そのことを思い出し、頷いた。

「実はさ、笠井さんの奥さん、体調があまり良くないみたいで入退院を繰り返しているんだ。この前、笠井さんが残りの人生、少しでも長く奥さんと一緒にいたいと呟いていたのを聞いて、その願いを叶えてあげたいと思った。それで、本当に俺でいいならこのバーを譲り受けますって伝えたんだ。そしたら、笠井さんは満面の笑みで『朔、お前にしか譲れないよ』って。それを聞いて胸に込み上げるものがあった……」

朔斗の話を聞いて私も胸がいっぱいになった。

笠井さんの朔斗に対する愛情が感じられた。
それと同時に、朔斗の笠井さんに対する熱い思いも伝わってきた。

「笠井さんにはずっと世話になっていたから、恩返しがしたかった。俺がこのバーを譲り受けることが最大の恩返しになるんじゃないかと考えたんだ」

ぐるりとバーを見回す朔斗の目には、強い決意が込められているように見えた。