『確かにお袋には頭が上がらないと思うけど、お前の人生なんだぞ』

「うん、分かってる。私だって自分が好きじゃない人とは結婚なんてしないよ。取りあえず、お見合いさえすればお母さんは満足するかなって思って」

幼稚な作戦だけど、相手に嫌われるようなことをしたら向こうから断ってくれるかなとか考えた。

『そうか。でも、本当にいいのか?』

「何が?」

『唯香、朔斗のことが好きなんじゃないのか?』

まさかの言葉に心臓が止まるかと思った。
何でお兄ちゃんがそんなこと知ってるの?

「ど、どうしてそんなことを言うの?」

動揺してしまい、どもってしまう。

『隠してるみたいだけど、俺はお見通しだからな。お前、毎週のようにバーに行ってるんだろ。朔斗が言ってたよ。『唯香の懐事情が心配だ』って」

「べ、別に毎週とか行ってないよ。二週間に一回とか……。って、そんなことより、何がお見通しなのよ」

『俺は唯香のことをずっと見てるから分かるよ。前の職場の人間関係で悩んでいる時、俺と一緒に朔斗のバーに初めて行っただろ。何度かそこで話し合ってても答えは出なくて。でもさ、お前は朔斗の一言で会社を辞めることを決めただろ。朔斗のことを心から信頼しているからこそ、大事な人生の決断をしたんだ。俺の言葉ではできなかったくせに、朔斗と話をした次の日には退職届を書いたって……。兄ちゃんは悔しいぞ』