「あー、もっと唯香と話がしたいけど、時間がないんだよ」

腕時計に視線を向けながら言う。
そっか。
スーツ姿だし、まだ仕事中だもんね。

「今さらだけど、りっくんは何してるの?」

「俺?営業マン。これが名刺」

名刺入れから一枚の名刺を取り出し、それを受け取った。

“花山株式会社 営業部主任、西田陸”と書いてあった。

「りっくんは主任なんだね」

「あぁ、この春からな。そういう唯香は何してるんだ?」

「私は名刺とかはないんだけど、歯科医院で受付事務をしてる。虫歯になったら来ればいいよ。うちの先生、腕はいいし人気があるから」

「あはは、その時は頼むよ」


りっくんは就職してからスマホを替えたらしく、改めて連絡先を交換して別れた。

話していたら、何だか気持ちが高校生の時に戻ったみたいだった。

そういえば、りっくんて今は彼女とかいるのかな。
聞きそびれたので、今度会った時にでも聞いてみよう。

こうしてわだかまりもなく穏やかな気持ちで話せるのも、あの時、お互いに納得するまで話し合った結果だ。
りっくんに彼女がいても素直に喜べる。

そんな私は浮かれすぎて、この後のショッピングで散在してしまい、家に帰って反省した。