最初は第一ボタンを触り、チラリと私の顔を見た後に第二ボタンに手をかけた。
そしてそれを外し、私の前に差し出した。

「これでいいかな」

「いいんですか?ありがとうございます。大切にします」

私は震える手でボタンを受け取った。
私の手にさっきまで先輩の制服についていた第二ボタンがある。

「先輩、卒業おめでとうございます。今日は本当にありがとうございました」

深々と頭を下げた。

これで思い残すことはない。
そう思って顔を上げると、西田先輩は立ち去ることなくその場に留まっていた。

「あのさ、実は俺も君に言いたいことがあって」

「えっ?」

「文化祭の時、綿菓子を作ってただろ。でも、割り箸に上手く絡めとれなくて変な形の綿菓子しか出来なかったんだよな」

先輩に言われ、その時のことを思い出し顔が真っ赤になった。

みんな普通に大きな綿状の塊になるのに、なぜか私は上手く出来なかった。
焦れば焦るほど、形は歪になって最終的には友達に代わってもらったんだ。

でも、どうして先輩がそんなことを……。

「友達と一緒に買いに来た時に見かけたんだ。その時に必死に作ってる姿を見て可愛いなと思って」

私の疑問を読み取ってくれたのか、先輩が答えてくれた。
そっか、先輩はうちのクラスに来てくれてたんだ。
綿菓子作りでテンパってたから気がつかなかった。ってそれより今、可愛いとか言われなかった?