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一日の仕事が終わり、私はある場所を目指す。
午後の診療時間は十九時までだけど午前同様、診療内容とかで長引くことはある。
そこから片付けや掃除をしていたら、だいたい二十時を回る。
仕事終わりは、真っ直ぐ家に帰るか、友達とご飯を食べに行ったりしている。
今日はひとり、通い慣れた道を歩き『ダークムーン』に来ていた。
ドアを開け、カランと鳴ったドアベルの音にカウンターのなかに立っていたバーテンダーの朔斗がこちらを向く。
「いらっしゃい」
目が合うと、緩く口角を上げる。
私はカウンターの一番端に座り、周りを見る。
店内には二人組の女性客がいた。
手相の話で盛り上がっているみたいで、お互いに手を見せ合っている。
「ビールでいいか?」
「うん」
朔斗は私が答える前にビアグラスを手に持っていた。
そしてビールサーバーからビールを注ぎ、コースターの上にグラスを置いた。
「食事は?」
「いつものとナポリタン」
「了解」
料理がくるまで何もすることがない。
いつもなら笠井さんもいて、話し相手になってくれているんだけど、今日はいない。
仕方なくバッグの中からスマホを取り出す。
消音にしてアプリゲームをしていると、お皿が目の前に置かれた。



