部長が珍しく口を開く。
「よし、事件を整理しよう。チコが持っている遅刻ノートは、個人、国かかわらず、その名を書くと、書かれたものは遅刻してしまう。
人の名前を書くとその人間が遅刻大王になってしまうし、恐ろしいのが国の名を書くと、その国の国民全員が社長出勤になってしまう。ここまではいいな」
「ハーイ」
「……」
「どうした、神林。橋高なんかみろ、イクラちゃんもいいところだぞ?」
「少し気になることが」
「どうした」
神林が言う。
「その、国を対象にできるって、本当なんでしょうか?」
「……ああ、言われてみれば、対象になったことは、今現在、ない……」

「国を対象にできると言われても、その対象をどこで判断するのか?誰が判断するのか?領土問題がある場所に住んでいる人はどうなるのか?択捉島に住んでいる人はロシア人か?日本人か?竹島は?国家承認されていないシーランド公国はどうか?そんな判断ができるわけがない」

「なるほど……」
「部長、一旦この件は置いて、問題の整理を続けてください」と神林。
「わかった。ではとりあえずだが、国の名前を書くと国民が社長出勤になってしまう。ここまではよしとする。この遅刻ノートで日本がチコから脅迫を受けている。日本を遅刻大国にしろ。しなければ、遅刻ノートで強制的にさせる。という内容だ。どう転んでも、日本は遅刻大国になる。こんなところだ。いいか?」

「遅刻ノートで本当にやられるより、形だけでもチコに賛同する体で発表する方がいい気もしますけど・・・」と橋高。
「うむ・・・そうだ。神林。さっきの意見について、何かあるか?」

「俺は・・チコの国家単位の遅刻ノート使用は嘘だと思っています」
「ブラフか!?」
「ええ。遅刻ノートの国家単位の使用はまだ行われていないはず」
「だが、それに近い状況の国はあるぞ?東南アジアの国にあったはずだ」
「そんなものは、Facebookでも使えば、いくらでも名前が湧いて出る。たくさんたどっていけばひと騒動起きるくらいにはなるさ。もっといえば、名前をハードコピーしてノートに貼ることだって可能かもしれない」

「なるほど……しかしこれは大きな賭けだぞ。神林」
「ええ。部長、俺たちは日本人です。賭けに失敗した場合、それは敗北を意味する!」

「まずは、国民投票だな……緊急の」

こうして、衆議院と参議院は緊急召集され、チコの要求による国民投票を行う法律案が国会により制定され、即日、施行された。これにより国民投票が2日後行われることとなった。

日本は再び、最大の危機を迎えることとなったのである。