あの後はそのまま彼をおいて帰った。



だからあの後彼が何を想い、何を感じたのかは分からない。



家を出て数分。



今日はいつもより少し遅い。



学校への道の途中。



「あ、」



一人の男が少し先を歩いている。



彼が誰なのかもう分かっていた。



こえをかけようとしたとき。



タッタッタッタッ!



なにかが横を通り抜けた。



正しくは『なにか』ではなく『だれか』なのだろうけれども。



「お、おはよっ!」



可愛らしい女の子の声だ。



「おはよう」



前を歩いていた男―平田大河がそれにはにかむように答える。