「へえ、じゃあきっかけはスカウトだったんですね、怖く無かったんですか?」

監督が天ぷらを汁に軽く浸しながら真剣な眼差しを向ける。

照れた。

「まあ、有名な所だし、丁度両親の離婚も重なってクサクサしてたので、半分やけですね。」

そんな事も有ったつけ、なんて思いながら謎のお刺身を口に運ぶ。

んまい。

「成る程、それが高校卒業して直ぐでしたよね。」

「ええ。」

歳月の流れを感じざるを得ない。

AV女優としては格段の長寿組になる。

「所で映画には興味あるのですか?」

鳥居ちゃん、話題転換。

「現代群像の『夢現つ』読んでますよ。」

監督の笑顔に、顔を被いたくなる。

映画のプロに映画のコラム読まれるとは。

「船越君と仲よかったんだね。」

船越君?

「ああ、ほら天国アパートの『平井 尚』役。」

監督の補足にピンと来る。

奈々の事だ。

同時に顔がカッと熱くなった。

天国アパートに付いて書いたコラムを読まれてしまった様子です。

「駄文申し訳ありませんでした。」

「いや、嬉しいですよ、でも船越君は残念でした・・・もう五年?ですか。」

グイとビールの入ったグラスを煽る監督。

鳥居君、すかさずビール瓶を持ち、注ぐ。

「そう、五年です、船越って本名ですか?」

ふとした疑問。

奈々とは仲良かったしプライベートでも、よくつるんだ。

お互いの家にも遊びに行った。

それでも私の中で奈々は星河奈々以外で有った時は無かった。

「そう、船越 杏子、知らなかった?」

「私と居る時は星河奈々でしたから。」

何だか少し淋しい気がした。