「でも…でも…領くんが大好き……」ちひろはずっと言いたかったことを吐き出した。

「寝てる間にしか言えないの…わかって…」と付け加えた。

「……」

ちひろは何も話さなくなった。

でも電話は切らず、そのまま繋がっていた。


声を殺し、暗い部屋の中で領は涙を流していた。


眠ってなんかいなかった。

とても悲しいのに、大好きだと言われて嬉しい…

初めて会った時から、外さない結婚指輪をみた時から、誰かのものだとわかっていた。


ちひろさんとは未来がない事もわかっていたから、いつも次の約束もしなかったんだ。


だけど…どんどん好きになってしまった。


心のままだとそれぞれの未来が壊れてしまう。


だから、どうにもできないことが一番つらい…


初めて手を握ったタクシーの中、あのおどけた顔がすごくかわいかった。

手を握っただけで、あんなにドキドキしたのは初めてだった。

あの時、僕の気持ちが加速した瞬間だった。


ちひろさんの大切なものは壊したりはしないから、もう少しの間だけ僕の事を好きでいてほしい…

互いに思いあいながら、それぞれがいつの間にか眠りについていた。