ピアスの秘密

領はずっとちひろのことを思いだし、考えながらこれでよかったんだと、新幹線の窓に映る自分に言い聞かせた。

走ったが間に合わず動き出した。

「ずるいよ…」
と領はドアを軽く叩いて、ちひろを見つめた。

ドアの向こうにちひろがいる。
本当に離れていくのが悲しかった。

ちひろがみえなくなるまで…
領を乗せた新幹線が見えなくなるまで…

互いに見送った。


また必ず会う、会いたいと思いながら。

駅にはFのポスターが貼ってあった。
心の何処かで、もう会えないかもしれないと感じながら…

ちひろはホテルの部屋から出て、何度も戻りたいと思ったが迷惑をかけてはいけないと我慢してエレベーターに乗った。

でも帰れず、京都をたつ領をみとどけて帰りたかった。
そうしなければ帰れなかった。

ホテルのロビーの柱に隠れて待った。

領の姿が時々涙でにじみながら、気づかれないように後をつけた。

そして領が座席についたのを確認して、窓越しに近づいた。

帰りたくないと言えなかった、でも本当は帰れなかったと伝えたかった。

これが精一杯の表現だった。

ちひろもまた電車にのり、現実の世界に帰っていった。