ピアスの秘密

二人はドアの前でしっかりと抱き合った。
何も話さないけど思いは同じだった。

また次いつ会えるかわからない、ちひろを困らせてはいけない。

このまま朝まで一緒にいたいけど、言える立場ではないし、領には仕事がある。

お互い言葉にしなかったけれど、何かが壊れてしまいそうで、言葉にできなかった。

「楽しかったのに、泣かないで…」と領はちひろの涙を拭いて、微笑んだ。

「ごめんなさい…楽しかったね…」と領に笑顔で答え、もう一度頬と頬を合わせ抱き合った。

「じゃあ、いくね。」

「僕は遅れてでるから。」
「本当にありがとう。」
とちひろは部屋の外へ出ていった。

エレベーターが止まった音がして、少ししてから領は部屋を出た。

もちろんちひろの姿はなかった。

いてほしかったと思いながら、これでいいんだと自分に言い聞かせた。

領はキャップを深くかぶり直し、駅へ向かった。

ゆっくりと階段を上り、少し待っと新幹線がホームへ着いた。

座席へ座り、やるせない思いでふとホームをみると、窓の外にちひろが立っていた。

泣いた赤い目をして笑顔で手をふっている。

領は必死にちひろのもとへ走り出した。