まるで地下鉄の、暗いトンネルを抜けて、現実の世界に帰っていくようだった。

携帯を出して2度も里香から連絡があったのを知った。
時間は11時だったし、もう少し余韻にひたりたくて、電話をするのをやめた。

自分の事しか考えてなかった。

こんなささいな事から、里香と距離が開いていくなんて、このときは考えもしなかった。

ちひろから何の連絡もないので、里香は少しイライラしていた。

夕方、仕事の帰り道、近所のファミレスでちひろのご主人と子供が三人で仲良く食事をしている姿が見えた。
里香はすぐに思った。

今日、ちひろは私に内緒で舞台を見に行ってると。

里香は今日の舞台のチケットが取れなかったから、土曜出勤をたのまれ、渋々出社していたのだった。

携帯を出し、ちひろへかけたが電源が切られていたので、予想は当たったと感じた。

ちひろが何をしてるのか気になって落ち着かなかった。
ちょうど舞台が終わった頃にかけてみたが、つながったものの電話に出なかった。
私の前で泣きながら話してくれたちひろ…

数少ない本音で話せる大切な友達だったのに。

何も聞かされてなかった里香は、寂しく思った。