会話は聞かれてなかった。私は里香に駆け寄った。

「里香。お願いがある。」なるべく落ち着いてゆっくり話した。

「何?どうしたん?」里香も真剣な私の表情に少し驚いたようだった。

私は一瞬、どう言おうか迷った。里香も行きたいだろうし、2人で行くわけにもいかない。それに騙されてるかもわからない。とりあえず何も言わない方を選んだ。

「今から用事で行きたい所があるねん。ごめんやけど、先に帰っといてくれる?」私は両手を顔の前で合わせてお願いした。

「べつにいいよ。でも何があるの?」里香は意味ありげに、ニヤリと笑って聞いてきた。


「ごめん。今度話すから許して。」私はもう一度お願いした。

里香はニヤニヤとしながら
「わかったよ。今度ゆっくーり聞かせてもらうからね。」

私は話さなくて済んだことに、ホッとした。
「ありがとう。」

「じゃあね。」と言って里香は、駅に向かう人混みに紛れていった。私は里香の後ろ姿に謝った。
ごめんね。

里香は私が男の人と会うというのを感じ取ったみたいだけど、きっとその人がまさか青木領とは思いもしないだろう。

そう考えただけで、またドキドキ緊張してきた。