ピアスの秘密

領とちひろの手は膝にかけたコートの中でしっかりと繋がれていた。

「僕が切符を買ってくるから、ちひろさんはここで待ってて」

「ありがとう。」

こんな人混みの中、2人で歩けないよね…

切符を手にした領は、深く被った帽子のしたでとびきりの笑顔をして戻ってきた。
「ホームまで走らないと間に合わない」

と言って、ちひろの手を繋いで人混みの中を一緒に走った。
急ぎながらも、まるでドラマのワンシーンのようだと思った。

ちひろはホームで、上がった息使いのまま、

「ありがとう。間に合ったわ。今日は本当に楽しかった。」

領をみつめ、そして手を放そうとしたが離れない、放してくれない…

「僕も京都までいく」

と、ちひろの大好きな笑顔をした。

「えっ!」

そのまま繋いだ手は離れないまま新幹線に乗り、京都へ向かっている。

平日午後のグリーン車、近くに人はいない…

領とちひろは繋いだ手の上にコートをかけて、なるべく小さな声で話をした。

ちひろは何度も何度も、このまま時間が止まってほしいと願い、領もまた、このまま2人でどこかに逃げたいと願った。

お互い言葉には出さなかった。

離れたくない…