「時計ですよ。確かこの屋敷時計がなかったはず。時間は僕たちが身に付けているこの腕時計で確認しましたが。」

「それがなんだって言うんだよ?」

「おかしいじゃないですか?屋敷の時計をすべて回収したのは時間を悟らせないためだとわかりますが、なぜ腕時計を’’回収しなかったのか?’’」

「た、確かにそうですよね。」

「たまたまじゃねぇーの?そんな事より腹減ったぜ。飯、飯。」

僕たちは、この何気ない会話からあんなことが起こるとは気づくことはなかった。

「今日の晩ご飯はサバ缶と白いご飯です。」

「うめぇ~!真子ちゃん料理上手いじゃん。」

「私、お米をといだだけなんだけどなぁ。」

「そんな事より、このお米はどこにあったのですか?」

「キッチンの下にある米びつの中に4日分くらいのお米が入ってましたよ。」

「なぜ、さっきまでどこを探しても缶詰めしか見つけられなかったのにこうも食料が増えるのでしょう?」

「確かにそうですね。」

「そんなの、どうだっていいだろ。そんな事よりドアの針金を切れるようなものを探そうぜ?」

「そんな事とはどういうことですか?」

「そんな事だろ!この屋敷から脱出するのが先だろ!脱出すれば食料のことも考えなくてすむしな!違うか?」

「屋敷から出られたとしてもこの場所がどこかもわからなければ、やはりここで何日か住むことになるかもしれません。どっちにしろ食料のことを考えるのがその後のためになると思いますが?」

「そんなの、ドアを空けてみなきゃわからないじゃねーか!」

「行き当たりバッタリじゃやっていけないですよ?」

「行き当たりバッタリって何だよ?」

「あなた見たいなことを言うんです。」

「何だと?」

人は、このような状況におちいると誰かに八つ当たりをしてしまう。精神的に不安になると弱い自分を隠すためにいや、偽るために誰かを蹴落として助かろうとする。人のことが考えられなくなる。この場合は、今この屋敷から出ることしか考えられなくなっている。’’ここから出るか’’出はなく’’ここから出たあと’’かもしれません。

「ちっ!何だよ!もういい!オレはオレで動く!じゃーな!」

そう言って笹原くんはこの部屋を飛び出してしまった。

赤松くんは、頭を抱えてしまった。この状況で自分と違う考えの人が出てくるとは思ってもみなかったのだ。

「水善さん。とりあえず食べた缶詰めを片付けましょう?」

そう言って僕はため息を1つついた。

「そ、そうですね。」

みんなが食べた缶詰めを片付けながらふと思う。

もしかしたら、一生このままなのかもしれない。

いっそのことキッチンにあった包丁で手首を切ればもしかしたら楽になれるのかもしれない。

恐怖を想像しただけでここに監禁されている人達は、この短時間で死を考えてしまっている。

「ねぇ?勝くんは、食料がどうして増えたんだと思う?」

「僕達をここに監禁をした犯人は僕達に死なれては困るのかも知れないですね。もしくは・・・・・・・」

「もしくは?」

「ここから逃がさない自信があるのか。」

「逃がさない自信・・・・・。」