恋ってやつは厄介である



夏輝とあたしが走り終わった頃、夕日はすっかり沈みきり、空が藍色に染まっていた。



「こんな時間までマジで走らせるとか部長マジ鬼ですよね」


「え?なんて?」


「なんも言ってないっす」



会話にまで格の差が表れているなんて恐るべき部長。じゃれ合う二人を微笑ましく見つめながら体育館に戻る。夏輝が一方的にコテンパンにされてるなんて知らないからね。




「…あれ?誰かまだいるの?」



体育館の扉から少しだけ漏れている明りを見つけ、そっと中を覗くとそこにはシュート練習をしている祠希がいた。



…部長のこと待ってたのかな?


なんて思いながら体育館に入ろうとした時、中にいるのが祠希だけじゃないことに気がついた。




「祠希先輩、さっきより良くなってますよ!」


「まじか!さんきゅーな、柚月!」




"柚月" そう呼ぶ祠希の声に全身が硬直して動かなくなった。足の先から冷たい何かが身体中を駆け巡る。


ふたりってそんなに仲よかったっけ?名前でなんて呼んでなかったよね?


どんどん、あたしの居場所が、無くなっていく。柚月ちゃんに取られちゃう。




気がつくと、楽しそうな二人の声を背に走り出していた。




見たくなかった。滅多に笑顔を見せない祠希が、ましてや女子に笑いかけるなんて今までじゃありえなかった。




"…お願いだから、消えてよ"





柚月ちゃんの低く小さい声が、頭のなかに響いていた。