世界はまだ君を知らない




「はぁ……」



ため息をひとつつくとこぼれた白い息に、余計寒さを感じる。

体温を逃さないように、緩んでいたマフラーをまたしっかりとまき直し、駅へ向かおうとした……その時だった。



「あっ、キミ!ちょっと待って!」

「へ?」



突然かけられた声に振り向くと、そこにいたのはスーツ姿のふくよかな中年男性。

メガネをかけたそのおじさんは、私を見ると嬉しそうに笑顔を見せる。



「キミ、背高いねぇ。顔立ちも綺麗だし……どこかでモデルとかしてる?」

「えっ?いえ、してませんけど……」



綺麗?モデル?

言われ慣れていないことに、戸惑いながらも少し照れながら答えると、おじさんはうんうんと話を聞く。



「そうなの?もったいないなぁ。じゃあうちの店で働かない?キミみたいな綺麗な男の子ならすぐナンバーワンになれるよ!」



……ん?綺麗な『男の子』、?

聞き間違いだろうかと一瞬思ったけれど、おじさんが笑顔のまま差し出してきたチラシに書かれた、『ホストクラブ・VELVET』の文字に聞き間違いではなかったと知る。



あ、あぁ……ホストクラブ……

つまり、男性にしては綺麗、ってこと……。



「……わ、私女なので。失礼します」

「へ?またまたぁ、そんな嘘ついて逃げないでよ〜」



冷ややかに否定し、その場を歩き出そうとする私に、おじさんは腕を掴み引き留める。