世界はまだ君を知らない




「千川?」



不意にかけられた声に顔を上げれば、そこには偶然通りがかったらしい仁科さんがいた。

戸惑い落ち込む私はきっと、変な顔をしているのだと思う。彼は不思議そうな顔で私を見た。



「あ……仁科、さん」

「どうかしたのか?そんなところで」



どうしよう。話すチャンスかもしれない。……けど、ダメだ。言えない。



「……な、なんでもないです。私、松さんを呼びに来ただけなので」



それ以上の言葉を飲み込み、足の向きをまた倉庫の方向へ向ける。



自惚れるな、自分。

私は彼にとっての特別なんかじゃない。

皆と同じで、ただの職場でだけのつながりで、それ以上のことを口出す資格はない。そう、ないんだから。



何度言い聞かせようとも、その度胸は苦しいけれど。