世界はまだ君を知らない




「……行かないで」



行かないで、ほしいよ。



「一緒にいたい、離れたくないです……でも、了さんの足を引っ張りたくない。力になりたいって、そう思う自分もいて」



離れたくなんてない。

ずっとここで、こうして抱きしめていてほしい。

あなたのことが好きだから

あなたがいないだけで、私はきっと、また下を向いてしまうから。



その想いを伝えた私に、彼はそっと額にキスを落とす。



「……ありがとう、翠」



柔らかな声に顔を上げるとその目は微笑むように細められる。



「安心しろ。どこにもいかない、ここにいる」



この目をのぞきこみ、真っ直ぐに見つめて伝えるその言葉に、また愛しさが込み上げて、泣きそうになってしまう。



「でも、転勤の話を断るわけにも行かないですよね……?」

「あぁ、転勤の話は受ける。新宿店から本社に転勤になるだけだしな」



だよね、転勤の話は受けるしかないよね……って、ん?

本社って、日本橋にある……本社?