世界はまだ君を知らない




「翠……来てくれてよかった」

「え?」

「メールの返事もなかったから、来てくれないかと思った」



はっ、そういえば私、返信忘れてた!

読んで自分の中で消化して、それで終わってしまっていたことを思い出す。



けど、『よかった』と言うってことは……心配、だったのかな。



仁科さんは話しながら、家の中へ私を招く。

玄関で靴を脱ぎ一歩彼の部屋へ踏み込めば、もう嗅ぎ慣れた彼の香りが漂って、胸の奥が安心感でいっぱいになる。

それに誘われるように、私は向けられた彼の背中にぎゅっと抱きついた。



「……了、さん」



ふたりきりのこの空間で、互いの呼び名をきっかけに、私たちの関係は恋人同士へ切り替わる。

背中に抱きつく私の不安を分かりきっているらしい彼は、体の向きをこちらに変え、正面から私を抱きしめた。



「……転勤の話、言えなくて悪かった」

「なんで、言ってくれなかったんですか……」


搾り出した問いかけに答えるより先に、抱きしめる腕にはぎゅっと力が込められる。