世界はまだ君を知らない






その日の夜。

仕事を終えた私の姿は、仁科さんのマンション前にあった。



仕事後に会う約束をした日は、皆にバレないように別々にお店を出て、彼の家で合流するのが私たちのルールだ。



本当は気まずくて、会うのは気が引けてしまうけれど……仁科さんから『話がしたい』とメールが入っていたし、一度ふたりできちんと話す必要もあると思いやってきたわけだ。



話って……当然転勤の話だよね。

別れようとか言われたらどうしよう。想像すると、こわい。

けど、ここで怯んでいても仕方がない。



そうぐっと気合いを入れて、マンションのロックを解除するとエントランスを通過した。



そして、やってきた4階の一番手前の部屋のインターホンを押す。

ピンポン、と軽やかな音が鳴って間もなく、開けられたドアからは仁科さんが姿をあらわす。



ネクタイをほどき、襟元のボタンを外した彼は、私を見ると少しほっとした顔を見せた。