世界はまだ君を知らない




「……はい、なんかもう諦めって感じなので。新しい恋に進みたいなって」



新しい恋に、進もう。

仁科さんへの想いは思い出にして、いつかそんなこともあったなって、笑えたらいい。

いつか痛みを忘れて、綺麗な思い出にできたら。



「甘い!」

「え?」



そんな私に、松さんは両腕を組み私を見据えて言い切る。



「諦めていいの?その人に恋人が出来ても、後悔しないの?絶対しない、って言い切れるなら諦めればいいけどさ」



いつか、いつか。

この胸の痛みが消えるだろう頃、誰かの隣で笑う彼を見て、私は心から笑える?

『後悔なんて絶対しない』、なんて言い切ることができる?



「好きって気持ちはそんな簡単には消せないんだから。新しい恋より、今ある気持ちを大切にしなくちゃ」



気持ちは、簡単には消せない……。

松さんのそのひと言は、ずしりと心に沈む。



たしかに、そう。

彼に抱いたこの気持ちは、消せない。なかったことにしたくない。

けどいくら私が想っても、彼にとって私はただの代わりでしかない。

向けられる想いは私に対してのものではなく、杉本さんへの後悔でしか、ないんだ。



そう思うと苦しくて、この想いをまた消してしまいたくなる。