世界はまだ君を知らない




「もともと綺麗な顔してるとは思ってたけど、最近ちょっとかわいくなってきたっていうか」



上坂の言葉に、藤井もうんうんと頷き同意する。



「あ!それ思った!なーんか女っぽくなったっていうか色気が出てきたっていうか……あれ絶対彼氏出来たよな」



彼氏……はおそらく出来ていないと思うが、自分以外の目にも彼女が“女性”としてきちんと映っていると思うと、よかったと思える。

周りからそう言われることで彼女自身も自信や前向きな気持ちが湧いてくるだろう。



……けれど。



「前までは同性って感じで見がちだったけどさぁ、最近の千川見てたらアリだなって思うんだよなぁー。試しにちょっと口説いて……」



それ以上の藤井の言葉を遮るように、今度は俺が手にしていたグラスをテーブルにドンッ!と力強く置く。

その勢いに、藤井は言葉を止め、隣の上坂とふたりで目を丸くして俺を見た。



「……藤井。社内恋愛は結構だが揉め事を起こしたら海外工場行きだぞ」

「へ!?えっ!?いや、ないないない!ないです!スタッフ口説いたりしません!!」



じろ、と睨んだ俺に、藤井は焦って弁解すると、酔いも覚めたかのように立ち上がり「ちょっとトイレ!」とその場を逃げ出した。