世界はまだ君を知らない






「あぁ〜、彼女ほしい!!」



その夜、駅前にある居酒屋でその言葉とともに藤井がテーブルに空になったジョッキをドンッ!と置いた。



「……人をいきなり飲みに誘ったかと思えば、なんの話だ?」

「付き合わせてすみません、仁科店長。藤井の奴、いい感じだと思ってた子にフラれたらしくて」



上坂のフォローにつまりはヤケ酒か、と納得すれば、一方で藤井は「くそー!」と机に突っ伏す。



今日の仕事を終えたあと、帰ろうとしていたところをこのふたりに呼び止められ、連れられたのはこの居酒屋だった。



聞けば藤井は失恋から気晴らしに飲みたかったらしい。上坂はそれをひとりで相手する余裕がなかったのだろう。

たまにはと付き合ったけれど、これはおとなしく帰るべきだったかもしれないと今になって後悔している。



「あーもう!絶対いけると思ったのに!食事もデートもおごったし、バッグも靴も買ったのにー!!」

「付き合ってもいない相手にそこまで金を使わせる女、という時点で気づくべきだったんじゃないのか?」

「仁科さんみたいなイケメンとは違うんですよ!俺みたいな普通の男はね、金を使わなきゃ土俵にも立てないんですよー!」



それは違うと思うが……。

グラスの中のビールを小さくひと口飲むと、隣で上坂は空気を変えるように話題をそらす。