世界はまだ君を知らない




「向こうで働いてた時に、当時よく札幌店に巡回に来てた本社勤務の彼と付き合ってね。結婚を機に東京に引っ越してきたの。で、今回旦那から『仁科が新宿店に異動した』って聞いて顔見に来ちゃった」



そうだったんだ。

へぇ、と話を聞いていると、若菜さんは思い出したように手にしていた薄ピンク色の紙袋を差し出す。



「あっ、これ差し入れ。大したものじゃないけどみんなで食べて」

「ありがとうございます。ここで話すのもあれですし、裏でお茶でも」

「いいのいいの!仁科くんの顔見に来ただけだし……今度休みの日にゆっくりご飯でも行きましょ。もちろん旦那も含めて3人でね」



若菜さんから受け取った紙袋を、仁科さんは私へ手渡すと『裏に持って行ってくれ』と目で合図する。

それを受け取り小さく頷くと私は小さく礼をしてその場を歩き出した。



それにしても、仁科さんがお客様以外に敬語を使ってる……ちょっと珍しい光景かもしれない。

部下という立場の人でも相手が先輩なら敬語なんだ。

けど、敬語なのに妙に堅苦しくならないふたりの雰囲気から、仲が良いのだろうことを察した。