……本当に、来てくれた。
なにも言っていないのに。こんなにも息を切らせて、駆けつけてくれた。
「どうして、来てくれたんですか……?」
驚き、しゃがんだまま見上げた私に、仁科さんは真っ直ぐな目をメガネ越しにこちらへ向けた。
「……お前が、泣きそうな声をしていたから」
そう言いながら、仁科さんは私を立ち上がらせるようにそっと手を差し出す。
泣きそう、なんて。
さっきの電話の、ほんの少しの声だけで気づいてくれた。
本当に、敵わない。
いつでも私は、彼に見透かされてばかりだ。
『そんなことないです』、とから元気で笑ってみせることもできる。だけど、今はしたくない。
彼の前では、素顔のままの自分でいたいと、心は叫ぶ。
その瞬間、瞳からはぽろっと涙がひとつこぼれた。
こらえきれず、どんどんと出てくる涙に、つまる胸の苦しさを伝えたくてその手を握る。
すると仁科さんは私の腕を掴み、ぐいっと力強く引っ張ると私を立ち上がらせ、そのまま体をぎゅっと抱きしめた。



