世界はまだ君を知らない




プルルルル……と少し長い呼び出し音に、まだ戸惑う心は切ってしまいそうになる。

けれど、その戸惑いを断ち切るように、呼び出し音は途切れた。



『……もしもし?』



それから聞こえてきた低い声。

それひとつで緊張や苦しさで張り詰めていた糸は緩み、涙が出そうになってしまう。



「仁科、さん……」

『千川?どうしたんだ、なにかあったか?』

「あ……いえ、その、」



どうしよう、なんて話すのかなんて決めていなかった。



声が聞きたかっただけ、なんて言ったらおかしいかな。

ついさっきまでお店で顔を合わせていたのに、今すぐ顔が見たいなんて言ったら、困るかな。



そんな思いから、それ以上の言葉は躊躇われてしまう。



『……千川、今どこにいる?』

「え……新宿の、中央公園です」

『わかった。今すぐ行くから、そこを動くなよ』



え……?今すぐ行くって……。

それだけを言うと、仁科さんは電話を切ってしまう。



そして、そのまま待って10分ほどが経っただろうか。革靴で駆ける足音とともに、仁科さんが姿を現した。



「千川、よかった……わかりやすいところにいてくれて助かった」



急いで来てくれたのだろう。息を切らせた彼は、少し苦しそうに呼吸をして、しゃがみ込んだままの私を見た。