「抱けないって彼氏にフラれるなんて、よっぽどですよね」



はは、と、自分でも分かるくらい下手な笑いをこぼす。



「だから、諦めたんです。恋も期待もせずにいれば、もう傷つくことはないから。……コンプレックスの塊だって言われても、これが私の、自分を守る術なんです」



つぶやくと、背後から伸ばされた手は私の頬を優しく撫でる。

その手に顔を動かされるようにそっと振り向くと、そこにある顔は悲しい顔で私を見ていた。



「傷つくことはないなんて言いながら、今お前は泣いてるだろ」

「え……」



仁科さんの言葉に、ふと気づく。

笑えていたつもりでも、自分の目からは涙があふれていたこと。



その涙はまるで、心の奥で誰にも見せずに自分が抱えていた痛みを表すかのよう。



「全てをひとりで抱えて、お前はずっと傷ついたままだ。そんなの、見ていられるわけがない。受け入れたフリで気持ちを押し殺すな。……ひとりで、泣かないでくれ」



『ひとりで、泣かないでくれ』



彼の言葉にいっそう涙があふれ出ると、その涙ごと受け止めるように、仁科さんは伸ばした腕で私の頭を抱き寄せた。



彼の硬い胸に顔を押し当てれば、全身に彼の香りが入り込む。

その香りと少し低い体温に、強い安心感を感じて、すがるように抱きついた。