黙々と料理を食べる夏生を眺めながら、奥様は口を開いた。
「そんなに慌てなくとも好きなだけお食べなさい」
その優しさに夏生は今は亡き母親の面影を見ながら、口に入っている美味な肉をごくりと飲み込んだ。
「しかし奥様、いつも本を貸してくださるだけでなく、お食事まで…」
「気にしないで。私が好きでやってることだから」
奥様はそう言うと席を立ち、部屋の大きな本棚から一冊の本を取り出してきた。
「今日は貴方にこの本を見せたくて」
「これは…」
それは明治維新の歴史について書かれている物だった。
「貴方は欧米の言葉や文化には興味があるけれど、この国のことも少しは知らないとね」
「う…」
確かにそうだ。
自分は歴史が苦手でそういう類には一切触れることがなかった。
「やっぱり歴史は必要でしょうか…」
夏生は肉を切っていた手を止めて尋ねた。
「必要ね。夏生には」
「『夏生には』とはどういうことでしょうか」
「貴方、将来は海外に行きたいとか、欧米の文化に関係する仕事に就きたいとか考えているんじゃない?」
「!」
図星だった。
どうして分かったのだろう。
このことは誰にも言ったことはなかった。
屋敷で働いている者がそんな馬鹿げたことを考えているという話が旦那様の耳にでも入れば、この屋敷を追い出されかねない。
「ど、どうしてそれを…」
怯えたように話す夏生に奥様は優しく微笑んだ。
「安心なさい、夏生。告げ口する気はありませんよ。それにもし、夏生が別の場所で働きたいと言いだしたら私は喜んで貴方を送り出すでしょう」
その言葉を聞いた瞬間、夏生はほっと胸をなで下ろした。
奥様は再度微笑み、本を手渡す。
「これを読んで、この国のことをよく知るのです。貴方の夢の為にも」
「はい!」
夢など誰にも言ったことはなかった。
その夢を応援してくれる人も今まで一人もいなかった。
でも今は違う。
それがどんなに心強いことか。
「奥様…!」
「いいわよ。片付けは芳子に頼んでおくから。早く読みたいのでしょう?本が」
「ありがとうございます!行ってきます!」
そう言うと、夏生は慌ただしく席を立ち、奥様に一礼した。
それを奥様は笑顔で手を振り、見送る。
「行ってらっしゃい」
その声を後ろに聞きながら、夏生は駆けだしていった。
「そんなに慌てなくとも好きなだけお食べなさい」
その優しさに夏生は今は亡き母親の面影を見ながら、口に入っている美味な肉をごくりと飲み込んだ。
「しかし奥様、いつも本を貸してくださるだけでなく、お食事まで…」
「気にしないで。私が好きでやってることだから」
奥様はそう言うと席を立ち、部屋の大きな本棚から一冊の本を取り出してきた。
「今日は貴方にこの本を見せたくて」
「これは…」
それは明治維新の歴史について書かれている物だった。
「貴方は欧米の言葉や文化には興味があるけれど、この国のことも少しは知らないとね」
「う…」
確かにそうだ。
自分は歴史が苦手でそういう類には一切触れることがなかった。
「やっぱり歴史は必要でしょうか…」
夏生は肉を切っていた手を止めて尋ねた。
「必要ね。夏生には」
「『夏生には』とはどういうことでしょうか」
「貴方、将来は海外に行きたいとか、欧米の文化に関係する仕事に就きたいとか考えているんじゃない?」
「!」
図星だった。
どうして分かったのだろう。
このことは誰にも言ったことはなかった。
屋敷で働いている者がそんな馬鹿げたことを考えているという話が旦那様の耳にでも入れば、この屋敷を追い出されかねない。
「ど、どうしてそれを…」
怯えたように話す夏生に奥様は優しく微笑んだ。
「安心なさい、夏生。告げ口する気はありませんよ。それにもし、夏生が別の場所で働きたいと言いだしたら私は喜んで貴方を送り出すでしょう」
その言葉を聞いた瞬間、夏生はほっと胸をなで下ろした。
奥様は再度微笑み、本を手渡す。
「これを読んで、この国のことをよく知るのです。貴方の夢の為にも」
「はい!」
夢など誰にも言ったことはなかった。
その夢を応援してくれる人も今まで一人もいなかった。
でも今は違う。
それがどんなに心強いことか。
「奥様…!」
「いいわよ。片付けは芳子に頼んでおくから。早く読みたいのでしょう?本が」
「ありがとうございます!行ってきます!」
そう言うと、夏生は慌ただしく席を立ち、奥様に一礼した。
それを奥様は笑顔で手を振り、見送る。
「行ってらっしゃい」
その声を後ろに聞きながら、夏生は駆けだしていった。

