店の表を掃除する小春の吐く息が白くなってきたころ。
通りを歩く人々の着物も厚手のものが増えてきた。
まだ通りは薄暗く、季節が冬に移り変わったことを顕著に表している。
「おはよう小春ちゃん」
「おはようございます」
「おはよう、今日も良い天気になるといいね」
「はい」
道行く人々と挨拶を交わす小春はいつものように明るい笑顔を振りまいていた。
「小春」
店の中から店主の声が聞こえた。
「はい」
大きく返事をして中に入ると、姿が見えない。
店主は奥にある厨房にいるようだ。
「なんでしょう?………!」
厨房に入ってきた小春の目に映ったのは店主の前に広げられていた大きな重箱だった。
おいしそうな料理が並べられている。
店主は茶店にだすような団子や菓子だけでなく、こうした豪華な料理を作るのも得意だった。
だから店主に注文をして特注で作ってもらう人もいた。
だがこの量は多すぎる。
なにより小春が今までみた中で一番豪華な料理だった。
「どうしたんですかこれ」
小春は驚きを隠せない。
「実はあるお屋敷で見合いがあるんだと。それでこの料理を作ってほしいと言われてな…昨日からの仕込みが大変だったよ」