どのくらいたっただろうか。
小春と夏生が馬車に揺られること数時間。
小春の思い出話が子守唄のように心地よく、うとうととしはじめた夏生に小春は言った。
「眠いの?夏生」
「い、いえ!全然!」
不意に声をかけられて驚いたのか、びくりと体を震わせて驚く。
「長旅で疲れたでしょう、宿まではまだあるから寝ていても良いのよ」
「せっかく奥様が話をしてくださったのに、眠れるわけがありません!」
とは言ってみたものの、いかにも眠そうだ。
「ではここで私の話は休憩にしましょう」
「え、でも…」
「心配しないで、まだ先は長いわ。焦らなくても大丈夫よ」
小春がなだめると同時に安心したのか、夏生はゆっくりとまぶたを閉じた。
「おやすみなさい夏生」
静かな寝息をたてはじめた夏生を隣に、小春は馬車の小窓を開けた。
爽やかな夏の香りが窓を吹き抜けていく。
過ぎ去る風景を見ながら、小春は懐かしい夏の日を思い出すのだった。