咲太郎と葵の2人が出て行く際、廊下で「あっ!」と声を発していたのが気になったので、土方は襖を開けて廊下を確認した。
そこにいたのはこの新選組の要でもある1番隊隊長沖田総司であった。
「いつからいたんだ総司」
「副長が遅れた理由を尋ねたときですかね」
総司は襖に寄りかかり、にやりと笑ってみせた。
「葵が怒られる…まして理由を言わないなんて珍しいですね。何かあったんでしょうか」
「…さあな」
土方はため息をつきながら前髪をかきあげる。
それと同時に総司は声を上げて笑いだした。
「何がおかしい」
「いやいや、本当は理由がわかるんでしょう?だって女にモテモテの副長ですからね…ふふっそれなのに…」
笑いをこらえきれずに会話の途中で吹き出す始末だ。
なんだか自分が馬鹿にされたようで気分の悪くなった土方は、話題を変えようと別の話を切り出す。
「…それより総司、大丈夫なのか?」
「…何が?」
少し間が開いてから総司は聞き返す。
「お前の体調のことだ。最近具合が良くないようだが」
「ちょっと疲れてるんですよ。平気ですって」
笑って答える総司はどことなく悲しそうだった。
それでも土方は話に切り込む。
「先日の池田屋襲撃の時、喀血したのを俺が知らないとでも思っているのか」
鋭く総司のことを睨む。
喀血したのは事実だ。
突入した隊士たちから聞いたのだから間違いない。
医者には診せているのだろうか。
最近の総司の顔色は悪く、以前よりずいぶん痩せた。
明らかに何らかの病が総司の身体をむしばんでいる証拠だ。
「…なんかの間違いでしょ。俺は元気ですから」
どこまでも誤魔化す総司に土方は言った。
「俺とお前の付き合いは副長と1番隊隊長という簡単なものだけじゃないはずだ」
いつも先陣を切って浪士たちをとらえてきたのは総司だった。
それは自分だけじゃなく、近藤さんも同じ気持ちだ。
「…本当にそう思いますか?」
「…俺はそう信じてる」
ただ静かに呟く総司に土方はただしっかりと答えた。
総司は空を見上げた。
雲ひとつない快晴だ。
「…俺は嫌なんです。誰かの足手まといになるのは」
ポツリと呟く総司の顔はどこか寂しそうで、このまま消えてしまいそうだった。
「俺たちの関係が簡単なものじゃないからこそ…俺の気持ち分かってくれますよね?」
「…」
土方には分かっていた。
総司が何を言いたいのかを。
自分の病が世間に知られたら、新選組にとっても隊士にとっても大打撃となる。
これからの隊士たちの運命を左右することになると。
自分達は3人の侍である前に、新選組局長と副長、1番隊隊長である、そう土方に伝えたいのだと。
でも土方は違う返答をした。
「分からん。分からんよ俺には」