「とにかくさ!」
沈んだ空気を振り払うように咲太郎は声を張り上げた。
「この街はきっと大丈夫だって!」
「咲太郎さん…」
「だってこの街には僕ら新…」
“新選組”と言おうとしたところで葵が咲太郎の口を塞いだ。
そして小声でたしなめる。
『おい、何言おうとしているんだ』
『ごめんごめん、口が滑ってさ…』
あうやく新選組の名を彼女の前で言ってしまうところだった。
さっき話さないと決めたばっかりだったのに…危ない危ない。
「何かおっしゃいましたか?二人とも」
小春が不思議そうな顔をしてたずねると二人は全力で誤魔化した。
「いやいや何でもないよ!」
「いつものことだ」
「そうですか?」
「ああ」
ナイスな葵のフォローが入ったところで、咲太郎は立ち上がった。
「さて、そろそろ帰ろうか葵」
「俺はもう帰りたかったぞ咲」
いやいや誰のためにこんなに長居したと思ってるの、と内心突っ込みたくなったが、また面倒くさいことになるのであえて言わないでおく。
「お代は…」
と全財産を貢ぐ覚悟で咲太郎は料金を小春に尋ねた。
「二人分の料金で構いませんよ。葵さんのおかわりはサービスです」
「まじで!?さすが小春ちゃん」
「帰るぞ」
全力で喜びを表現している咲太郎を置いて、葵はさっさと歩き出した。
「まってよ葵!じゃあ小春ちゃんまたね」
お代を払い終えると、葵を追いかけるように咲太郎も走りだす。
「ありがとうございました!」
満面の笑みで小春は二人を見送った。

小春はまだ知らなかった。
彼らが新選組であることを。
彼らが自分とは違う道を歩んできたことを。
これからも分かり合えないことを。