「少ないなこの団子は」
もぐもぐと口を動かす葵の団子の皿はかなりの数が積み上げられていた。
「葵って意外と甘党なのな」
それを半ばあきれ顔で見つめる咲太郎は、自分の今月の給料の心配をし始めた。
これやばいな。
金がなくなる。
「別にいるとは言ってないのに、この女が持ってくるから食べているだけだ」
「女じゃなくて小春ちゃんな」
「小春か、…おい小冬!」
訂正するも、葵には無理だった。
「小春ですよ、葵さん」
次の団子を持って、にこやかに店の奥から出てきた小春は葵に尋ねた。
「お茶のおかわり入りますか?」
「頼む」
あ、これは素直に言うんだ、というのは咲太郎の感想である。

「最近物騒ですよね」
お茶を持って戻ってきた小春がふと呟いた。
「まあな、この前も池田屋でいろいろとあったしな」
俺達も行ったけど、というのはふせて咲太郎は青い空を見上げる。
街の人…ましてやこんな優しい少女に血生臭い話はしない方が良いと咲太郎は思った。
「ここのところ討幕派と幕府派の争いが激しくて、街の雰囲気もどこかピリピリしてるんです」
「お前はどちらがいいと思っているんだ?」
「え?」
小春が聞き返した相手は葵。
先程の団子もすっかり食べ終わり、小春から受け取ったお茶をゆっくりと飲み干す。
「幕府が続くのを望むのか、それとも新しい世の中を望むのか」
言い方は静かだったが、その目には光が宿っていた。
「それは私のような一市民に言う資格はありません」
小春がきっぱり告げると、すかさず葵が切り込む。
「じゃあ誰が言う?幕府のお偉いさんか?公家様か?お前のような一市民が言わないで誰が言うんだ?」
咲太郎は驚いていた。
葵がこんなに話すとは…しかも歳が近しい少女に。
明らかに葵の中で何かが変わったようであった。
「では、はっきりと言わせていただきます」
小春が意を決したように、きりっと葵を見た。
「私は幕府だとか新しい世の中だとか…そんなものに興味はありません」
「…そんなもの、とは?」
「私達街の一市民はお上がどうだとか…そんなのどうだっていいんです。ただ平和な世の中に暮らせれば私達は幸せなんです」
しばらくの沈黙が流れた。
そしてどこか寂しそうに微笑んで、葵が呟く。
「平和な世の中…か」
今まで自分がしてきた血生臭い行為への嘲笑か、単に小春の吞気な言葉を馬鹿にしたのか、それは咲太郎にもわからなかった。