『新選組』彼らがそう呼ばれるようになったのはつい最近のことであった。
それまでは『壬生浪士組』。武士だけではなく、百姓や商人の子まで様々な者がそこに入隊していた。
その数200人余り。
局長の近藤を始め、鬼の副長土方、1番隊隊長沖田と新選組は強者揃いであった。
その後めざましい活躍をし、幕府お抱えの『新選組』となったことはいうまでもない。
「新選組ねぇ…」
非番だろうか。新選組の屯所から出てきた一人の青年があくびをしながら言った。
以前まで『壬生浪士組』と貼られていた看板は取り外され、今は真新しい『新選組』と書かれた新しい看板が貼られている。
「今じゃ幕府の忠臣なんて、ずいぶん立派に…」
その青年が言い終わる前に、彼を刀の鞘が後ろから叩いた。
「何を言っている!」
「葵かよ…」
葵と呼ばれた青年は声を荒げて言った。
「幕府お抱えになったからって調子に乗るな。俺たちはこれからも…って聞いてるのか与太郎!」
「与太郎じゃねえわ!咲太郎!お前いい加減名前覚えろよ!」
「う…すまん名前を覚えるのは苦手なんだ」
「物覚えは悪いわ口下手だ…お前から剣術とったらなにが残るんだか」
「それを言うな咲…」
少し気まずそうにつぶやく葵に咲太郎は言った。
「なぁお前も今日は非番だろう?少し街をぶらぶらしようぜ」
「何を言っている。剣士たる者…」
「ああお堅いお堅い!そんなピリピリ生真面目に生きてたら女にモテねぇぞ?」
「別に構わない。俺は局長や副長、沖田さんのような剣士になるのだから」
「局長だって沖田さんだってきっと遊郭ぐらい一度は行ったことがあるさ。副長なんて京の女達にモテモテだぞ?」
「う…」
返す言葉がなくて葵は口をつぐんだ。
実際葵は今で言うコミュニケーション能力が全くというほどなかった。
いわゆるコミュ障である。
仲の良い?友達は咲太郎くらいなのだ。
「お前とも仲が良いのかわからないな…」
少なくとも活発でお調子者の咲太郎は自分とは正反対で少し苦手だ。
というか疲れる。
「まぁまぁそんなこと言わずに!俺は葵のこと大好きだからさ」
「そういうところが苦手だと言っているんだ」
ポロッと思ったことを口にする咲太郎を見ると、軽い男だと思うと同時に羨ましい気持ちも湧き起こる。
そんなことを考えながら葵は歩き出した。
「この先に茶店があるんだけど寄って行こうぜ」
咲太郎が楽しそうに言うのを見て、葵はため息交じりに呟く。
「お前…俺と寄り道するために非番を一緒の日にしただろう」
「あ、ばれた?」
やっぱり俺はこいつが苦手だ。