奥様が函館に行こうと思った理由…確かに気になってはいた。
「奥様が京生まれなのと今回の函館旅行は関係があるのですか?」
「ええ」
「でも京と函館…特に共通点はないように思いますが」
「それがあるのよ」
「?」
夏生は奥様を見つめた。
いたずらに微笑む奥様はどこか楽しそうで夏生はますます疑問に思った。
疑うように奥様をもう一度見つめると、それに気づいたのか奥様が口を開いた。
「貴方に…昔話をしましょうか」
「昔話?」
夏生は身を乗り出し、奥様に言った。
「聞きたい!…っ聞きたいです!」
夏生の真摯な態度を小春…奥様は微笑ましく思った。
そしてゆっくりと語りだす。
夏生の耳には奥様以外の声が届くことはなかった。
「あれはまだ私が京にいた頃のことよ」


「暑い暑い夏の日―――」