『鬼龍の中国拳法を習得したい』

それは、真太郎たっての希望であった。

父・夕城 瑠璃の事は尊敬を通り越して崇拝すらしている。

よくは知らぬ祖父は勿論だが、目にする事の多い瑠璃の背中は、今もって真太郎の目標だ。

そしてその背中に寄り添い、時には父ほどの漢が背中を預ける唯一の女、鬼龍。

百戦錬磨の強者が集う夕城の宗家分家にあって、唯一人無手で渡り合える存在である。

いまや剣しか知らぬ分家の剣士達に、体術の手解きをするまでの使い手。

そんな技術の持ち主を母に持ちながら、その息子が剣を失えば手も足も出ぬではみっともなかろう。

何より。

「……」

汗を流しながら、チラリと縁側に座って稽古を見守る愛する娘の姿を見る。

紫陽花の為にも、強くなりたい。

紅葉の時のように、容易く唇を奪わせて涙させるような事がないように。