意識を回復した彼を待ち、苦し紛れの言い訳をした後。





途切れた会話と、穏やかな沈黙を割いて、また、笑う。






「じゃあ、まぁそういうことだから。…加瀬、夕。よろしく」








そう言って私に向けたその笑顔は、やっぱり透明で、垣間見えた腹黒さとか、そんなの全部打ち消してしまうくらいに、綺麗で優しい。






ずるくて、たまらなく、ずるくて。






もう少し、自己紹介の順番は後だったけれど、隣人特権、特別サービス。





「…立原、立原 華子」






それから、なんとなくつられて笑ってしまう。





「…よろしく、ね」







吹いた春の風に後押しされて。