ぼんやりとしていた私を、またしても戻してくれたのは、隣の席。




「…おい?」



「ぅ、えっ?!くそ…」




ゴホンゲホン、わざとらしい咳払いをひとつふたつしてから、私の中のシークレットネームを隠す。





(危ない、危ない)





怪訝そうに、私をのぞきこんでくる大きな黒の瞳のなかに、ほんの僅かな心配の色。





(え…)






なに、心配、うそ、心配?なにこの人、心配ってボキャブラリーを持っていたの?






不思議な感動と、実はいい奴フラグを発見して、淡い罪悪感と、新たな希望に胸を弾ませていられたのも、つかの間。







「…なに、くそ?くそ行きてーの?おい、女として、さすがにそれはいただけねーよ」







この後、数十秒間、彼の人生には空白の時が訪れますが、私が彼になにをしてみちゃったのか、それはやはり皆様の豊かなご想像力にお任せいたします。