しかし、そうはさせない。
親指の爪をがりりと噛んで、とやろうとして、さすがに思いとどまる。いくら、紹介するものがないにせよ、女というカテゴリーから脱する勇気は、私にはまだ無かった。
とりあえず、そうはさせないぞ糞野郎め。
もはや呼び名と化した、その名を胸中で叫ぶ。
すると、あまりにもうるさい私の視線に気づいたのか、流し目の野郎と目が合って。
あ、やばい、瞳を逸らそうとした瞬間。
小さく笑った糞野郎。
(…!)
その笑顔は、なんだか、深く深く優しくて。
またしても釘付けになってしまう。
ぼさっとする私を見て、なにを思ったのか、もう一度。笑って、それからゆっくり口を動かす。
『ばーか』
それを目にした私が、一体どんな仕打ちを隣の席の糞野郎さんにしたのか、それは、皆様の豊かなご想像力にお任せいたします。
