カタン、
軽い音を立てて、椅子を引くその姿を、じっと見つめていると。
席に落ち着いて、軽く伸びをしていた彼が、ちらりとこちらに視線をよこす。
(…!)
ばっと、思わず首ごとひねって、その視界から逃げる。
(って、何やってんの、私!!)
我に返っても、時、既に遅し。
がっつり90°回転させた首を、どのタイミングで戻してみればいいのかわからなくなり、私、今学期初フリーズ。
神様ぁぁぁぁぁぁぁ!頼むからなんとか自然に、ネイティブな感じにこの忌々しい首をまっすぐ戻せるきっかけを用意してくれませんか、ねぇ、ねぇ!
ぐあっとうなっていると、ふっ、と空気の抜けるような音が聞こえた。
「…え?」
首めぇぇぇぇぇぇぇぇ、そんなことを思っていたことなんて、頭の中から抜け落ちて、あっさりと音の方へと、首が回る。
「くくっ、…ふっ、はっ」
手の甲に、口もとを押しつけて、必死に笑いを噛み殺す彼の姿。
くくっ、くっ、肩を震わせるたびに、やわらかそうな黒髪がふわりと揺れる。それを、ぼーっと見つめていると、顔を伏せていた彼がこちらを見上げて。
ばちっ、と視線が交差した瞬間
「…〜っ、!ぶはっ」
もうだめだ、そう言わんばかりの勢いで、彼は指先で私を一度指差して、爆笑を始めた。
「…え、ちょっと、ちょっと、ねぇ!」
なんでか知らないけれど、なんとなく果てしなく馬鹿にされているような気がして、声を荒らげてみせる。
すると、机に突っ伏して笑う彼の手が、再び顔の前へと現れて、ぱっと開く。
一瞬、きょとんとしてから、我に返る。
「…タンマってことか、そうなのかこの糞野郎…!」
