(…不思議なひと)
奪われた瞳はそのままで、ふっとそんなことを思った。特別、学園の王子様、みたいに目立った外見でもないのに。
春のように、ふんわりと
端正な顔立ちと、纏うやわらかな雰囲気が、不思議と目を惹いた。
「え、…っと」
私の隣、空席のままだったその椅子に手をかけて、彼が困ったように小首をかしげる。
「…っえ!あ、えっと、その」
はっとして、慌ててなんとか声をだそうとして。
(私の馬鹿!)
まさか、出会ったばかりのあなたに見惚れていました、なんて、馬鹿正直には言えなくて、とりあえず無視したままのあいさつを返す。
「えと、…よろしく、ね」
新しい教室に射し込む、春の陽だまりの中で、安心したように、彼は笑った。